土素人が農業を始めた新規就農の道

熊本県の農業雑誌に連載でエッセイを書いています。
現在の連載は「土素人が農業を始めた新規就農の道」というタイトルで書いています。

ちょと恥ずかしいのですが、2月号に書いた記事を紹介しますね。

 私達が農業を始めた頃はプチ農業志向の時代で、私の周りでも何人かが田舎に入りました。30数年前と今では、状況は違っていると思いますが、昔の話の方が村とのすれ違いが分かりそうなので、紹介します。
 奄美に入った友人の話です。受け入れてくれる人がいて、古い家を借りる事ができました。ところが、数年後に村を出て行くことになったんです。
 もともと村の人は、よその人には親切です。古い家の風呂を改修するのに必要だろうからと、「入会地の木を切っていいよ」と言ってくれたのでした。だから、喜んで自分たちで木を切ったそうです。これが一つ目の大きなタブー。都会から来た彼女達は、木の種類も、切る順番も知りません。だから、村の人からみれば「なんでその木を切るの?と」いう木を切ってしまったのでした。
 新しい生活に夢あふれ、鶏を飼いたいと、庭に小さな鶏舎を作り、ひよこを入れました。これが二つ目のタブー。ハブのでる奄美では、屋敷内でひよこは飼ってはいけなかったのです。

 村を出る事になる前に、トラブルは回避できなかったのでしょうか。実は、村の人は、都会人が何も知らないということを知りません。だから説明の必要があると思わないらしいのです。もしかして、木を切る順は説明したのかもしれませんが、田舎に入ったばかりの都会人は方言が分かりません。彼らがニコニコと黙って聞いている時は、聞き取れなかったと思った方がいいくらいです。それに、村の人ははっきり物を言わないのに加えて、会話の中に代名詞が多い。小さい時から、いや、何代も前から共有している村の生活からくるアウンの呼吸なんでしょう。「昨日たい、あそこの人が、そうばさしたったい」。という会話で、昨日何かがあったことは了解!で次。「あそこの人って誰?」「そうばさしたって何?」と頭にリフレインして、何も聞き取れないで終了!となります。

 この話で、新規就農者とつきあうのは面倒と思わないでください。大きなタブーはともかく、小さなタブーは気長に教えて、つきあってください。村の風習、文化を教えてもらうのはとても嬉しいのですから。私達は現在受け入れ農家側なのですが、トラブルやすれ違いの経験値が、受け入れの底力になると信じています。